亜麻傘はよく床で寝る。



目の前にベッドがあっても、ソファがあっても、柔らかいクッションがあっても問答無用で固い床で寝る。
変だと思った。後で身体が痛いと言って文句を言ってくるくせに(別に俺がいちいち床に落としているわけではない)
別に害があるわけではない。寝てるだけだ。疲れてだろうか眠たいからだろうか知らないが、寝ているだけだ。

でもその姿が、まるで事切れた。死んだ人間のように見えて時々怖くなる。





「(また寝てる・・・)」


部屋に入ってきた瞬間目に入ってきたのはフローリングの床にピンクの塊が丸まって寝息を立てている図だった。
冷静にしゃがんで頬を軽く手の甲で叩いたらオッサンみたいな唸り声をあげたので死んでいるというわけではないのだととりあえずホッとする。
しかし勉強したいと言ったのはそっちのくせに寝るとはどういうことかと。人が風呂に入ってる間に良い度胸だ。
瞬時に怒るときに使う単語を頭に並べたが課題のプリントもテストの予想範囲も全部終わっているようだった(相変わらず字が丸すぎる)
・・・寝ているということは泊まっていくという事なのだろうか。今日普通に親いるんだけどな。いや別にもう良い気がしなくもないけど。
とりあえず顔がうつ伏せになって苦しそうだったので脇の下を持って抱える。捕まえられた猫みたいに腕をだらりと下げた亜麻傘の顔が見えた。
やっぱり寝てる。長い睫毛の目が閉じられていて床に鼻を押し付けていたからか若干赤い 口の端から涎が垂れていたので肩にかけていたタオルで強く拭っておいたこの女。後で拭かす
抱えたまま横のベッドに座って亜麻傘の頭を膝に置く。ふわふわとした長い髪が膝の上で散らばってくすぐったくなった。試しに髪を一つまみすると指と指の間を流れるようにして落ちていった
深い寝息を立てている顔を見て一体いつになったら起きるんだろうと溜め息を吐いた。まぁ夜中まで寝ているようだったら思い切り叩き起こしてやろうと思いながらベッドに置きっぱなしだった文庫本を手に取った。





「(起きない・・・・・)」


膝が段々痺れてきて、ふと壁の時計を見たときだった。時計の針ももう二周目突入目前だというのに全く起きる気配がない。それなりに厚い文庫本も読みきってしまって絶賛手持ち無沙汰状態だった。
本気で叩き起こしても良いのだが後が面倒なのでするつもりはあまりない。(拗ねられて口も利かなくなられたら困る)
でもむかつくといわれればむかつくので鼻の上に静かに文庫本を置いた。すると若干寝息が苦しそうになったので声を殺して笑いながら本をどけて枕に向かって軽く投げた。
顔を近づけて亜麻傘を見る。化粧が取れかかっていて素顔に近い顔だった。しかしそんなに変わらない気がした。変わらないのだからわざわざ化粧しなくても良い気がしたがそこは女じゃないと分からない事情があるのだろう。
唇もリップが取れて乾燥しつつあった。こんな姿、学校じゃあまず見れないだろうなと思うと自分の特権っぷりに少々悪い笑みがこぼれた。
今キスしたら起きてしまうだろうか。それもなんだかつまらない気がした。呼吸を阻害したり顔を近づけても起きないのなら何か悪戯をしても文句は言えまい。今の今まで散々こいつの悪戯の被害に合ってきたのだから仕返ししてやる。

まず最初に頬を軽くつねる。小さく唸ったが起きる気配がない。日々つねっていて思うが中々弾力のある頬だと思う。やっぱり太・・・・・これ以上言うのはやめておこう。
太ってるといったら腹とかもそうなのだろうか。あまりというか触らない部位なので今のうちに触っておこうと思う。カーディガン越しに軽く撫でると心なしか出ている気がした。昼に食べたドーナツが溜まっているのだろうか。まぁあれだけ食べれば溜まるか(横から見ててさながらフードバトルだった)溜まった後、こんな小さくもない身体のどこに吸収されているのやら。やはり胸なのか、都合の良い身体だ。
顔身体ときて次は足なのだがちょうど腿が見えたのでそこで妥協することにした。腿の裏をつねると腿と変わらない弾力でやはりこいつはデブだと思った(ついに言ってしまった)
そのままそっと内腿を軽く撫でたら自分の頬がつねられた。下を見ると亜麻傘が起きてこちらを見ていた。


「セラフィくんのえっち」

「いつから起きてたの」

「ほっぺたつねるちょっと前くらいから」


狸寝入りしてやがったこの女。


「人放って爆睡してるからだよ」

「お風呂長いと思ったもん」

「君と一緒にしないでよ」

「それより人に勝手にセクハラした落とし前はどこでつけてくれるの?」


人の膝の上で寝といてなんでこんなに偉そうなんだと思った。襲おうと思えばいつでも襲えるのに
別に変なことをしているとは全く思ってない。なんたって仕返しなんだから。この女には仕返しを受ける義務がある。


「仕返しだよ。今の今までそっちが俺に悪戯してきたんだから」

「その度にセラフィくんがお説教だったりなんだりしたんだからプラマイゼロだよ」

「なにそれ」

「だから今度は私がセラフィくんを触ってもいいよね?」


いきなり顔を近づけてきたのでビックリして後ろに下がろうとしたらそのまま押し倒された。頭が壁にぶつかって痛い
亜麻傘はそのまま俺の上に乗っかって眼鏡を取った。視界が瞬時にぼやける ちょっとぼやけた亜麻傘が俺の眼鏡をかけていた。ちょっと可愛いと思ってしまった自分が憎い


「眉間がクラクラする。」

「返して。あと避けろ」

「やなこったー」


力ずくで避けようと思ったがいつの間にか指が絡んでいて上手く力が入らなかった。
目の端にキスが落とされる。食むようなキスで、乾燥した唇が軽く擦れた。
キスをしながらそのまま片手を器用に服の中に滑り込ませてきたと思ったら胸の突起を摘まれた 突然のことに耳が途端に熱くなった


「ちょっと、どこ触ってんの」

「折角だし開発してあげようかな〜って」

「しなくていい!」

「まぁまぁそう言わずー」


そう言ってヘラヘラ笑いながら亜麻傘は柔く触ったり指の腹で転がしたりした。くすぐったくて変な声が出るのを必死で抑えた
耳だけだった熱さがじわじわと頬にまで伝わってきたと思ったら頬を舐められた。舐めて体温判断するとかこいつ人間じゃない


「セラフィくん熱い」

「誰のせいだと思ってんの」

「はっはっはー初心だなー」

「違う」

「かわいい」


変な顔で笑ったと思ったら手が下のほうへ伸びてる気がして急いで止めた


「待って何するつもり」

「何って、ナニ?」

「そんな寒い台詞いらないから!」

「はははーいやーたってるかなーと思って」

「たってない!」

「なーんだ咥えるなり足でやるなりしてあげようと思ったのに」

「しなくていい!」


そうやってギャアギャアと会話のドッジボールをしていると階段を上がる音がした。まずい親だ
冷や汗を垂らしていると亜麻傘が不思議そうな顔をした。おい、なぜそんな顔ができる。耳遠いのかコイツ


「親来たから」

「うん」

「うんじゃねぇよ」

「いいじゃん私たちの頑張りを見せてあげよう」

「見せなくていい!!!」


くだらない口論をしていると次第に足音が部屋に近づいてきた。くそっ、やむを得ない。こうなったら―








「あらセラフィどうしたの。息が荒いわよ」

「なんでもない」

「あとどうして亜麻傘ちゃんうつ伏せで倒れてるの」

「こういう寝相なんだよ彼女」

「ふーん・・・そういえば亜麻傘ちゃん今日泊まっていくの?」

「みたいだよ」

「そう。じゃあちゃんとお世話してあげるのよ」

「うん。」








ドアが閉められた瞬間亜麻傘がうつ伏せになったまま声を出した


「いきなり片手で放り投げるなんて酷いじゃん」

「俺はまだ親と友好な関係を築いていたいからね」

「中出しするわけじゃあるまいし」

「君仮にも女子だろ」

「はははっ」


よっこらせと声を出しながら(オッサンがいる)亜麻傘は起き上がった。放り投げた衝撃でかおでこが赤い


「セラフィくんのばーか」

「俺のほうがばかって言いたいよ馬鹿」

「今言ったじゃん」


笑いながらも完全に不貞腐れている様子で雑に立ち上がってそのままベッドに転がった。スカートのひだがちょっと取れかけていた。
開発されそうになったり親に誤解されそうになったりと不貞腐れて文句言いたいのはこっちの方なのに。全く面倒な奴だ。思わず溜め息が出た。横に座ってピンクの頭を撫でる


「悪かったよ投げたりして」

「もう萎えた。」

「それは良かった。」


軽く笑ったら亜麻傘がこっちを見た。と思ったらいつの間にか移動して膝の上に頭を乗っけていた。何このデジャヴ


「罰としてセラフィくんは今日私の枕係ね」

「俺も寝たいんだけど」

「座って寝ろ」

「ふざけろ」

「じゃあ抱き枕かな」

「ふーん」


まぁ悪くはないかと思って愛情のでこぴんをするとオッサンのような唸り声をあげて抱きついてきた。

まったく色気も無い、可愛げもない でも可愛い奴









その後夜中にまた亜麻傘が馬乗りしてきたので思いっきり床に放り投げたのは言うまでもない













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